SM系チャットルーム「十六夜」に出入りするようになって、3回目ぐらいの時、ゆきこは僕のルームを訪れてくれた。
そんな前書きを読んで、プロフィールを走り読みした後、彼女は入ってきてくれたのだ。
簡単な挨拶をした後、僕は彼女に尋ねた。
「僕のプロフ、読んでいただけましたか? ゆきこさんはどんな方ですか? SM経験者の方ですか?」「どんなことされてみたいって思っているんですか? 願望とかあります?」
「今日はどんな話とかしたいですか? なんか聞きたいことがあれば言って下さいね」
チャットルームは基本、男性がいる部屋に女性が入ってくるため、初心者女性は匿名性は守られているとはいえ、どんな相手が何を言ってくるか、ほとんどわからないまま、そこに入っていく。当然、かなりの勇気が必要なはず。なので、僕は僕なりに気を使い、紳士的に、彼女のSM的嗜好を探る質問と、話しやすそうな話題を探そうとしていた。だけど彼女の反応は、かなり重い、なかなか話が前に進まない。そんな言葉少ないやりとりが15分ぐらい続いただろうか…。ゆきこは言った。
「こんないきなり、そんなこと初対面で聞くんですか?」
「普通、もっと話してから、そういうことは話すんじゃないですか?」
彼女は、面食らっているというか、なんか怒っているみたいな気がした。
「ちょっとすました感じに見られることが多いかな… お高くとまっているって思われているみたい」
そんな風に自己紹介してくれた佳子とは、このブログを開設し、十六夜に通うようになってすぐに知り合った。首都圏で生活をしていてOLをやっていると彼女は言った。年齢は20代後半。確かにテキストチャットをしていても、そんなちょっとクールな感じが伝わってくる。別にそのことを気にしていて「本当はそんな風じゃないのに・・・」みたいに思っている様子もない。あまり同世代の男には興味がないらしく、どう思われようがかまわないし、今は10歳以上年上の男性と恋人関係にあると教えてくれた。
「同世代の男は、物足りない・・・」
ちょっと突き放したように彼女は言う。
理由は2つ。ひとつは、この娘とのやり取りを公開することで、このブログの読者、とりわけ現在コミュニケーションをとらせて頂いている他の女性達に僕のコミュニケーションの目的について、あらぬ誤解をされるんではないか…という不安。もうひとつは、ここで取り上げる美和自身もここを読むことによって、僕とのコミュニケーションに影響が出てしまうのではないかという不安。
というのも実は彼女はネット調教を志願したからだ。僕がチャットでM女性達と会話をしたいのは、彼女達を卑猥な言葉で興奮させて、それを自分でも楽しむから・・・ではもちろんない。それでもこういうこともしているんだと思われれば、それはプラスにもマイナスにも働く。どちらかというとマイナスが多いと考えられる。
今回の「ネットで出会ったM達の横顔」は、いままでのものとちょっと違う。基本、このカテゴリーでは、「1.はじめに…このカテゴリーの趣旨と説明」に書いたように、Mであることに悩み打ち明けられずにいる女性達のケーススタディになるように僕こと尚人とネットを通して出会ったM女性とのやりとりをできるだけ、ありのままに書いていくことを目的としている。でも今回は、どちらかというと、この交流で僕が感じた“想い”がその中心になる。今後こういうケースは増えていくかもしれない。なぜなら僕は惚れっぽいので、どうしても彼女達をフィールドワークの対象者と割り切ることが出来ずに、彼女達に惹かれてしまうから。もうかれこれ50人ぐらいの女性とこの2ヶ月半、話をしてきたが、すでに3,4人には強い恋心を抱いてしまった。最初はこのカテゴリーで一番初めに紹介した“ゆきこさん”。そして今回惚れてしまったのも、また露出願望の女性だ。これって偶然だろうか? まあそんなひとりの女性への僕の淡い想いを綴っていく…。
言葉を探していた。ずっと考えていた。何を彼女に伝えられるか…。彼女はまたきっとやってくる…。何も根拠はなかったけれど、そのことに疑いはなかった。もし次に話ができるなら、そのとき僕は彼女の抱えているMとしての哀しさをどうにかしてあげたかった。そんな力が自分にあると思っていた訳じゃないけれど…。
自分が誰に対してでも、何かができるなんてことを、いつも考えているわけではない。彼女の抱えている哀しさや、そしてその元となる境遇、状況すべてが自分の手に余るものだと感じていた。
昨日のことを振り返りながら、それでも僕は彼女に伝える言葉を探していた…。
前回、「CASE4-1 ペルソナを打ち砕く露出願望の歌姫 聖子の場合」の冒頭で、今回はいつもと違うと書いた割に意外と、普段と変わらない構成で原稿が仕上がった。でもそれは思っていた以上に文章量が増えてしまったせいで、実はこの後編にこそ、いつもと違う部分が集中してしまっている。前回は彼女のMとしての告白を中心にその心情を書き綴ってきたが、別に後編に新しい事実や衝撃的告白が加わっているわけではない。後編はどちらかというと彼女の問題と言うよりは、それに関わってしまった僕の問題。その後の彼女との交流の中で僕が何を想い考え何を彼女に伝えたか…いや、何を伝えられなかったか、それが中心となっている。ごめん、どんなに期待されてもそんなおもしろいもんじゃない(笑)。
Rは幼いころから虐待を受けていた。ことあるごとにお前は悪い子だ。ダメな子だと親に刷り込まれ、同時に折檻を受けていた。その折檻は多くの場合、なじられながらお尻を強く叩かれること。そのときにおしっこやうんちを漏らしても、折檻は続いた。 彼女は18歳のバージンだと名乗った…。